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No.39
009
ガーネット(ジョーとジェット)
*CPではありません。
遠くのほうで、何かの壊れる音がした。それと同時に目を開けると、鬱蒼とした木立の透き間からまだ暗い空が見えた。背中が冷たい、湿った土はゆたかな緑の匂いを放つ。こんな状況であっても、身を隠しているこの場所はまるで外界と無関係な表情をして、ふと帰る場所の裏手に在る森を思い出させた。
身体は動かないながら覚醒している意識が、ジョーの負った疵の深さを認識した。頭を持ち上げようとしただけで鈍い痛みが走り、思わず呻き声が洩れた。太い樹の幹に後頭部を押し付け、自身の身体を見おろすと、両の脚が膝下から失くなっていた。何が、起こったのか……、記憶を辿る間に再び大きな爆発音が耳に届く。心臓が痛い。痛い? ジョーは自嘲気味に笑う。痛いだなんて、ばかげている。機械仕掛けの心臓をまるで生身であるかのように自分はいま、労わった。ばかげている。僕はいよいよ、おかしくなってきているのかもしれない。そう思うと涙が目の淵から毀れ、いやだ、首を振りながら幹に凭れかかった。いやだ、いやだ、おかしくない、僕は少しも、おかしくなんか、ない。誰か、誰でもいいから肯定して、肯いて、僕は正気だと証明して。
ブラックゴーストに唆された独裁政権下にある小国の民草が、まるで死ぬことを最大の幸福だとでもいうように、無謀な叛乱を始めた。つい二日前のことだった。バックグラウンドである独裁者と、ブラックゴーストの甘美な破滅への囁きとがほどけない糸になり、同じ土地、同じ人種同士の争いは終息するどころかますます膨れあがる一方だった。
ライフルを手にした民衆を、ジョーは力づくでしか止められなかった。数えきれない死体を見下ろして、途方に暮れた瞬間、背後に激しい衝撃を喰らって気を失った。
身体がばらばらになったような気がした。狭くなってゆく視界の端で、ジェロニモがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
おそらく、自分は敢えてミサイルを身体に受け止めたのだろう。戦ってゆくうち、なんの痛みも苦しみも感じられなくなるのではないかという恐怖が、気配を感じていても逃げることを阻んだ。落ちる身がジェロニモの腕に収まり、意識はそこでぷつりと途切れた。
みな、まだ戦っているのか。この争いはいつになったら終わるのだろう。たとえブラックゴーストを殲滅させても、政治に不満を感じ続けていた民衆の怒りや憎しみは、途絶えることなく燃え上がる。そんな想像は容易にできた。けれど、やはり、戦わなければいけないのだろう。終わりが告げるまで。幾人もの犠牲を払ってでも。
「009――ジョー、大丈夫か?」
土を踏む音がして視線を向けると、ジェットが銃をホルダーに収めながら歩いてきた。片足を僅かに引き摺っている。身体を起こそうとした瞬間、咽に熱いものがせり上がり大きく咳き込んだ。
「おい、ジョー?!」
げほっ――吐き出された赤黒い液体が破れたマフラーを汚し、すいと身体を支えたジェットの戦闘服にまで飛び散った。疾うに汚れの染み付いた戦闘服の上に、オイルと、自分が人間である証の血液が、点々と付着する。悪寒が走る。いっそう見えなければよいのに、サイボーグ化されたからだは夜でも充分にその染みを確認させるに至った。
「クソ……ひでぇな、こりゃ。ひとまずドルフィン号まで戻るぜ」
「ジェット、」
抱きかかえられた態で、ジョーはジェットの動きを制した。訝しむ視線が、無遠慮に落ちる。また、爆発音が轟く。そのなかに誰かの悲鳴を察し、ジョーは力なく唇を噛みしめた。そして、上目遣いでジェットを見つめ、くちをひらいた。
「僕は、……」
咽もとの体液が邪魔をして言葉を紡げない。噎せるたび、ジェットはしゃべるなと険しい目つきを拵えてジョーを改めて抱きかかえた。
彼に抵抗すらできない、払い除けることもできない。続けたい言葉は在る筈なのに、結局、僕はまた繰り返してしまう。戦いへ、望んでもいない場所へ、かえらなければならない。
「……終わりにしよう」
ふ、と声が洩れた。ジェットの動きが止まる。見開かれた目を向けられ、ジョーは自嘲するように微笑んだ。「終わりにしよう、もう」。
痞えていた筈の言葉は思いがけずすんなりと出た。一瞬の思考ののち、無意識に、であった。無意識であったから、直後に鋭く頬を張られた時、何が起こったのかすぐには理解できなかった。ジェットは横抱きにしたジョーを睨み据え、
「なに寝言言ってやがるッ!」
と、叫んだ。樹々がざわめき、騒ぎが遠のいて、二人を囲む周囲の感覚が明瞭になってくる。灼けるような痛みが頬に在る。それがジョーの、失いかけていた気力を喚起させた。夜に溶けた、赤茶の双眸を見上げるジョーをジェットは一瞥し、舌を打ってから横柄に抱え上げた。
「お前がこんなんじゃなきゃ、ブン殴ってたとこだ」
「こんな……」
ジョーは改めて自分の下肢を見やる。膝下から先の失くなった醜い両脚。先端からしたたる紅に、ふいに目頭が熱くなった。
「ジョー?」
頬を伝う涙に気づいたジェットが僅かに上擦った声を放ったが、ジョーは、なんでもない、と、かぶりを振った。なんでも、ないんだ、ほんとうに……。
「痛いのか?」ジェットはなおも不安そうに問う。
「うん、……痛い、痛いよ」ジョーは素直に答えた。いたい、と。そして痛みのみなもとである切断された膝下、出血し、それが純粋なものでなくとも、赤い体液であること、それから、先程ジェットに叩かれた頬。
「んじゃ、なおさら早いとこ戻らなきゃな」
ジェットの声に、そうだね、と頷きながら、ジョーはまた一滴の涙を流した。顔を隠すように俯き、流れた涙は顎を伝い落ち戦闘服を濡らした。誰かのものと自分のものとで汚れた戦闘服に、まるで慈雨のようにそれは沁み込み、やがて視認できなくなった。
inspired by garnet / cocco
(12.0627)
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ありがとうございます!
2025.1.11
No.39
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*CPではありません。
遠くのほうで、何かの壊れる音がした。それと同時に目を開けると、鬱蒼とした木立の透き間からまだ暗い空が見えた。背中が冷たい、湿った土はゆたかな緑の匂いを放つ。こんな状況であっても、身を隠しているこの場所はまるで外界と無関係な表情をして、ふと帰る場所の裏手に在る森を思い出させた。
身体は動かないながら覚醒している意識が、ジョーの負った疵の深さを認識した。頭を持ち上げようとしただけで鈍い痛みが走り、思わず呻き声が洩れた。太い樹の幹に後頭部を押し付け、自身の身体を見おろすと、両の脚が膝下から失くなっていた。何が、起こったのか……、記憶を辿る間に再び大きな爆発音が耳に届く。心臓が痛い。痛い? ジョーは自嘲気味に笑う。痛いだなんて、ばかげている。機械仕掛けの心臓をまるで生身であるかのように自分はいま、労わった。ばかげている。僕はいよいよ、おかしくなってきているのかもしれない。そう思うと涙が目の淵から毀れ、いやだ、首を振りながら幹に凭れかかった。いやだ、いやだ、おかしくない、僕は少しも、おかしくなんか、ない。誰か、誰でもいいから肯定して、肯いて、僕は正気だと証明して。
ブラックゴーストに唆された独裁政権下にある小国の民草が、まるで死ぬことを最大の幸福だとでもいうように、無謀な叛乱を始めた。つい二日前のことだった。バックグラウンドである独裁者と、ブラックゴーストの甘美な破滅への囁きとがほどけない糸になり、同じ土地、同じ人種同士の争いは終息するどころかますます膨れあがる一方だった。
ライフルを手にした民衆を、ジョーは力づくでしか止められなかった。数えきれない死体を見下ろして、途方に暮れた瞬間、背後に激しい衝撃を喰らって気を失った。
身体がばらばらになったような気がした。狭くなってゆく視界の端で、ジェロニモがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
おそらく、自分は敢えてミサイルを身体に受け止めたのだろう。戦ってゆくうち、なんの痛みも苦しみも感じられなくなるのではないかという恐怖が、気配を感じていても逃げることを阻んだ。落ちる身がジェロニモの腕に収まり、意識はそこでぷつりと途切れた。
みな、まだ戦っているのか。この争いはいつになったら終わるのだろう。たとえブラックゴーストを殲滅させても、政治に不満を感じ続けていた民衆の怒りや憎しみは、途絶えることなく燃え上がる。そんな想像は容易にできた。けれど、やはり、戦わなければいけないのだろう。終わりが告げるまで。幾人もの犠牲を払ってでも。
「009――ジョー、大丈夫か?」
土を踏む音がして視線を向けると、ジェットが銃をホルダーに収めながら歩いてきた。片足を僅かに引き摺っている。身体を起こそうとした瞬間、咽に熱いものがせり上がり大きく咳き込んだ。
「おい、ジョー?!」
げほっ――吐き出された赤黒い液体が破れたマフラーを汚し、すいと身体を支えたジェットの戦闘服にまで飛び散った。疾うに汚れの染み付いた戦闘服の上に、オイルと、自分が人間である証の血液が、点々と付着する。悪寒が走る。いっそう見えなければよいのに、サイボーグ化されたからだは夜でも充分にその染みを確認させるに至った。
「クソ……ひでぇな、こりゃ。ひとまずドルフィン号まで戻るぜ」
「ジェット、」
抱きかかえられた態で、ジョーはジェットの動きを制した。訝しむ視線が、無遠慮に落ちる。また、爆発音が轟く。そのなかに誰かの悲鳴を察し、ジョーは力なく唇を噛みしめた。そして、上目遣いでジェットを見つめ、くちをひらいた。
「僕は、……」
咽もとの体液が邪魔をして言葉を紡げない。噎せるたび、ジェットはしゃべるなと険しい目つきを拵えてジョーを改めて抱きかかえた。
彼に抵抗すらできない、払い除けることもできない。続けたい言葉は在る筈なのに、結局、僕はまた繰り返してしまう。戦いへ、望んでもいない場所へ、かえらなければならない。
「……終わりにしよう」
ふ、と声が洩れた。ジェットの動きが止まる。見開かれた目を向けられ、ジョーは自嘲するように微笑んだ。「終わりにしよう、もう」。
痞えていた筈の言葉は思いがけずすんなりと出た。一瞬の思考ののち、無意識に、であった。無意識であったから、直後に鋭く頬を張られた時、何が起こったのかすぐには理解できなかった。ジェットは横抱きにしたジョーを睨み据え、
「なに寝言言ってやがるッ!」
と、叫んだ。樹々がざわめき、騒ぎが遠のいて、二人を囲む周囲の感覚が明瞭になってくる。灼けるような痛みが頬に在る。それがジョーの、失いかけていた気力を喚起させた。夜に溶けた、赤茶の双眸を見上げるジョーをジェットは一瞥し、舌を打ってから横柄に抱え上げた。
「お前がこんなんじゃなきゃ、ブン殴ってたとこだ」
「こんな……」
ジョーは改めて自分の下肢を見やる。膝下から先の失くなった醜い両脚。先端からしたたる紅に、ふいに目頭が熱くなった。
「ジョー?」
頬を伝う涙に気づいたジェットが僅かに上擦った声を放ったが、ジョーは、なんでもない、と、かぶりを振った。なんでも、ないんだ、ほんとうに……。
「痛いのか?」ジェットはなおも不安そうに問う。
「うん、……痛い、痛いよ」ジョーは素直に答えた。いたい、と。そして痛みのみなもとである切断された膝下、出血し、それが純粋なものでなくとも、赤い体液であること、それから、先程ジェットに叩かれた頬。
「んじゃ、なおさら早いとこ戻らなきゃな」
ジェットの声に、そうだね、と頷きながら、ジョーはまた一滴の涙を流した。顔を隠すように俯き、流れた涙は顎を伝い落ち戦闘服を濡らした。誰かのものと自分のものとで汚れた戦闘服に、まるで慈雨のようにそれは沁み込み、やがて視認できなくなった。
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