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No.55
東京卍リベンジャーズ
no title(ベンワカ)
目が覚めたときに、若狭のきれいな顔がすぐ目のまえにあっても慶三は驚かなくなっていた。こんな朝の迎え方なんて不健全なのではないかとほんのり気に病んだときもあるにはあったけれど、そんなかわいらしい時期はいつのまにか過去になった。今は、そばにある若狭の、かすかに甘ったるい体温と穏やかな寝息を享受するのが慶三にとっての幸福だった。
若狭が一人で住まう部屋のベッドはダブルベッドだったけれど、ガタイの良い慶三がベッドに横たわると若狭の眠るスペースは途端になくなってしまう。だから必然的に若狭は慶三に体を寄せる。男ふたりが同じベッドに眠るなんてこれまで慶三にはとても考えられなかった。しかし若狭は至って平然としていた。はじめての夜も、まるで猫のようにするりとベッドに滑りこむと、アルコールが回って朱色に染まった頬をにたりと緩める。昨夜も、そうだった。いつものようにどろどろに酩酊した若狭を彼の部屋まで送り届けて、着替えなどの世話をしているうちに慶三も若狭と一緒に夜を明かすこととなった。
いつも連んでいる真一郎も武臣も、まさか自分たちが同じベッドに寝ているなんてことは知らない。これは、だから慶三と若狭ふたりだけの秘密である。
いったいこれでなん度めになるのか、数えることなどとうにやめてしまったからわからない。しかし、若狭とひとつのベッドに眠り、彼の寝息に触れられるほど顔と顔が近くにある、なんていう頓狂な朝に慣れきってしまったのだから、両手の指を合わせても足りないかもしれなかった。
カーテンのすきまからこぼれた淡い朝日が、若狭の白い頬を斜めに横断していた。慶三は眠気に抗うようぱちりぱちりと瞬きをして、焦点を若狭の顔に合わせる。きれいだな、と率直で愚鈍な感想をため息とともにを吐きたくなるくらい、彼は――今牛若狭はきれいな男だった。顔だけはない。すんなりとした、少し猫背気味の佇まいも、しなやかな腕や脚も、長い髪の毛もその一本一本も。すべてが神に愛されたとしか思えないくらいうつくしかった。それはけっして大袈裟な表現ではなかった。少なくとも慶三にとっては、だったけれど。
引かれるとわかっているから誰にも言ったことはない。真一郎にも武臣にも、そして当然、若狭本人にも。しかし、慶三にとって若狭はそういう存在だった。そう、はじめて彼を見た瞬間から。
同性にたいして「うつくしい」と表現することなどもちろん慶三にははじめての経験だった。うつくしいという形容は女性にたいしてすべきものだと、男はただ強く逞しくあらねばならぬという観念を持っている慶三は、きれいだ、うつくしいと若狭に感じた当初は動揺したものの、今では事実なのだから仕方がないと思うようになった。
じっと見つめていると、やがて若狭のまぶたがふるえ、ふぁあああ、と猫のようなあくびをもらした。いくらうつくしいと言っても若狭は男に違いなく、動作も大きいし恥じらいも見せない。長いつき合いというのも理由なのだろう、慶三の前ではいつも、彼は無防備だった。
「ん……なに?」
若狭はとろんとした目で慶三を見た。あくびのために潤んだ瞳。突然交わった視線に驚いて、慶三は咄嗟に目を逸らした。見つめていたことに気づかれた恥ずかしさが全身を包む。ちがう、そんいうんじゃねぇ。そう言い訳をしたかった。でも、いったいなにがそういうんじゃないのか、わからない。
「なに目ぇ逸らしてんだ、ベンケイ」
するりと伸びてきた手が頬に触れた。つめたい手で両頬を挟まれ、強引に引っ張られる。視線が、もう一度絡んだ。今度は糸が絡まりあうように、容易にはほどけない。
若狭に強く見つめられて、慶三はつくづく自分の非力を思い知る。べつに恋人でもなんでもないのに、まるでそういう関係のように寄り添って見つめあって、いったいこれはなんだ、なんなんだ。プライドがズタズタにされる感覚、しかし取り繕う気も起きないから不思議だった。いっそう、若狭の思うままにしてくれていい、とさえ思ってしまう。
「……だよ、」
ようよう唇を動かして、慶三は声を発した。か細い声に若狭は不愉快そうに顔を顰める。なんだって? 問い詰められて、慶三は片手で顔の半分を覆った。
「きれーな顔だな、って、思って、見てたんだよ」
悪いか、バカ。はっきり言葉にしてしまうと、途端に頬が熱くなっていく。はあぁ、とため息をもらして指のあいだから若狭を見ると、彼は目を丸くさせて敬三を見ていた。ぽかん、という擬音が聞こえてきそうだった。
「手ぇ離せ」
頬を包む若狭の手を横柄に振り払う。存外すんなりと離れていったつめたい手に、その感触に、一瞬だけだけれど罪悪感を覚えた。
罪悪感、だなんて。なんで。
枕に仰向けになって、舌をうつ。静かな部屋にその音は思いがけず高く響いた。
いつのまにか見慣れたものになっていた天井を見上げて、なにしてんだ、と自嘲する。なにしてんのかな、オレら。なにしてぇんだ? オレも、コイツも。
若狭がなにを考えているのかわからないのは昔からだった。そんな中でもつきあっている時間と比例して、表情の微妙な動きやまなざしに宿る光の加減で、少しずつ彼を知っていくのに慶三はかすかなよろこびを感じていた。若狭のいろいろな表情が見たかったし、その目がなにを見てどんな色にひかるのか、見とめたかった。こんな願望を他人に抱くなんてはじめてだったので、戸惑いながら、けれど今までに見たことのない顔をする若狭を見ると、たまらなくうれしくなってしまう。それは揺らぎない事実なのだった。
わずかに視線を動かしてみる。長い髪の毛が垂れて、若狭の表情は見えなかった。呆れた顔をしているのだろうと想像する。なに言ってんだオマエ、などと罵倒されると思った。なのに、いつまでも彼は無言だった。
「……おい」
声をかけると、組んだ両腕に顎を預けていた若狭はふっと顔を背けた。髪の毛が流れて、朱色に染まったかたちのよい耳があらわになった。
「ワカ、」
「バカじゃねぇの」
先ほどの慶三のものよりもっと細く小さな声で若狭は言った。悪態をつかれているのに力のない声はいつになく慶三の心をくすぐった。なに、照れてんだ。ツッコミたかった、けれど、慶三もまた自分の顔にいっそう熱が帯びるのを感じたので唇を引き結んだ。
若狭の顔を見たいのに、見たくない、とも同時に思った。きっとコイツはまた、オレの知らない顔をしている。でもそれを見てしまったら。そう思うと怖かった。きっと、なにかが終わってしまう。否、それともなにかが始まるのか?
クソが。慶三は呻きたい気持ちを抑えて再び天を仰ぐ。若狭はまだ黙っている。口を開いたとき、コイツはなにを言うんだろう。聞きたいような、聞きたくないような複雑な気持ちで、慶三は天井に一つだけある薄墨色のちいさな染みをじっと見つめた。
#ベンワカ
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ありがとうございます!
2025.7.27
No.55
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目が覚めたときに、若狭のきれいな顔がすぐ目のまえにあっても慶三は驚かなくなっていた。こんな朝の迎え方なんて不健全なのではないかとほんのり気に病んだときもあるにはあったけれど、そんなかわいらしい時期はいつのまにか過去になった。今は、そばにある若狭の、かすかに甘ったるい体温と穏やかな寝息を享受するのが慶三にとっての幸福だった。
若狭が一人で住まう部屋のベッドはダブルベッドだったけれど、ガタイの良い慶三がベッドに横たわると若狭の眠るスペースは途端になくなってしまう。だから必然的に若狭は慶三に体を寄せる。男ふたりが同じベッドに眠るなんてこれまで慶三にはとても考えられなかった。しかし若狭は至って平然としていた。はじめての夜も、まるで猫のようにするりとベッドに滑りこむと、アルコールが回って朱色に染まった頬をにたりと緩める。昨夜も、そうだった。いつものようにどろどろに酩酊した若狭を彼の部屋まで送り届けて、着替えなどの世話をしているうちに慶三も若狭と一緒に夜を明かすこととなった。
いつも連んでいる真一郎も武臣も、まさか自分たちが同じベッドに寝ているなんてことは知らない。これは、だから慶三と若狭ふたりだけの秘密である。
いったいこれでなん度めになるのか、数えることなどとうにやめてしまったからわからない。しかし、若狭とひとつのベッドに眠り、彼の寝息に触れられるほど顔と顔が近くにある、なんていう頓狂な朝に慣れきってしまったのだから、両手の指を合わせても足りないかもしれなかった。
カーテンのすきまからこぼれた淡い朝日が、若狭の白い頬を斜めに横断していた。慶三は眠気に抗うようぱちりぱちりと瞬きをして、焦点を若狭の顔に合わせる。きれいだな、と率直で愚鈍な感想をため息とともにを吐きたくなるくらい、彼は――今牛若狭はきれいな男だった。顔だけはない。すんなりとした、少し猫背気味の佇まいも、しなやかな腕や脚も、長い髪の毛もその一本一本も。すべてが神に愛されたとしか思えないくらいうつくしかった。それはけっして大袈裟な表現ではなかった。少なくとも慶三にとっては、だったけれど。
引かれるとわかっているから誰にも言ったことはない。真一郎にも武臣にも、そして当然、若狭本人にも。しかし、慶三にとって若狭はそういう存在だった。そう、はじめて彼を見た瞬間から。
同性にたいして「うつくしい」と表現することなどもちろん慶三にははじめての経験だった。うつくしいという形容は女性にたいしてすべきものだと、男はただ強く逞しくあらねばならぬという観念を持っている慶三は、きれいだ、うつくしいと若狭に感じた当初は動揺したものの、今では事実なのだから仕方がないと思うようになった。
じっと見つめていると、やがて若狭のまぶたがふるえ、ふぁあああ、と猫のようなあくびをもらした。いくらうつくしいと言っても若狭は男に違いなく、動作も大きいし恥じらいも見せない。長いつき合いというのも理由なのだろう、慶三の前ではいつも、彼は無防備だった。
「ん……なに?」
若狭はとろんとした目で慶三を見た。あくびのために潤んだ瞳。突然交わった視線に驚いて、慶三は咄嗟に目を逸らした。見つめていたことに気づかれた恥ずかしさが全身を包む。ちがう、そんいうんじゃねぇ。そう言い訳をしたかった。でも、いったいなにがそういうんじゃないのか、わからない。
「なに目ぇ逸らしてんだ、ベンケイ」
するりと伸びてきた手が頬に触れた。つめたい手で両頬を挟まれ、強引に引っ張られる。視線が、もう一度絡んだ。今度は糸が絡まりあうように、容易にはほどけない。
若狭に強く見つめられて、慶三はつくづく自分の非力を思い知る。べつに恋人でもなんでもないのに、まるでそういう関係のように寄り添って見つめあって、いったいこれはなんだ、なんなんだ。プライドがズタズタにされる感覚、しかし取り繕う気も起きないから不思議だった。いっそう、若狭の思うままにしてくれていい、とさえ思ってしまう。
「……だよ、」
ようよう唇を動かして、慶三は声を発した。か細い声に若狭は不愉快そうに顔を顰める。なんだって? 問い詰められて、慶三は片手で顔の半分を覆った。
「きれーな顔だな、って、思って、見てたんだよ」
悪いか、バカ。はっきり言葉にしてしまうと、途端に頬が熱くなっていく。はあぁ、とため息をもらして指のあいだから若狭を見ると、彼は目を丸くさせて敬三を見ていた。ぽかん、という擬音が聞こえてきそうだった。
「手ぇ離せ」
頬を包む若狭の手を横柄に振り払う。存外すんなりと離れていったつめたい手に、その感触に、一瞬だけだけれど罪悪感を覚えた。
罪悪感、だなんて。なんで。
枕に仰向けになって、舌をうつ。静かな部屋にその音は思いがけず高く響いた。
いつのまにか見慣れたものになっていた天井を見上げて、なにしてんだ、と自嘲する。なにしてんのかな、オレら。なにしてぇんだ? オレも、コイツも。
若狭がなにを考えているのかわからないのは昔からだった。そんな中でもつきあっている時間と比例して、表情の微妙な動きやまなざしに宿る光の加減で、少しずつ彼を知っていくのに慶三はかすかなよろこびを感じていた。若狭のいろいろな表情が見たかったし、その目がなにを見てどんな色にひかるのか、見とめたかった。こんな願望を他人に抱くなんてはじめてだったので、戸惑いながら、けれど今までに見たことのない顔をする若狭を見ると、たまらなくうれしくなってしまう。それは揺らぎない事実なのだった。
わずかに視線を動かしてみる。長い髪の毛が垂れて、若狭の表情は見えなかった。呆れた顔をしているのだろうと想像する。なに言ってんだオマエ、などと罵倒されると思った。なのに、いつまでも彼は無言だった。
「……おい」
声をかけると、組んだ両腕に顎を預けていた若狭はふっと顔を背けた。髪の毛が流れて、朱色に染まったかたちのよい耳があらわになった。
「ワカ、」
「バカじゃねぇの」
先ほどの慶三のものよりもっと細く小さな声で若狭は言った。悪態をつかれているのに力のない声はいつになく慶三の心をくすぐった。なに、照れてんだ。ツッコミたかった、けれど、慶三もまた自分の顔にいっそう熱が帯びるのを感じたので唇を引き結んだ。
若狭の顔を見たいのに、見たくない、とも同時に思った。きっとコイツはまた、オレの知らない顔をしている。でもそれを見てしまったら。そう思うと怖かった。きっと、なにかが終わってしまう。否、それともなにかが始まるのか?
クソが。慶三は呻きたい気持ちを抑えて再び天を仰ぐ。若狭はまだ黙っている。口を開いたとき、コイツはなにを言うんだろう。聞きたいような、聞きたくないような複雑な気持ちで、慶三は天井に一つだけある薄墨色のちいさな染みをじっと見つめた。
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