Note

No.124

去年?書いたひなたとけんまのおはなしが下書きに残っていたので、めちゃくちゃ途中なんだけどここに置いておきます‥^^cp未満(たぶん)、けんまが日向家にお泊まりするおはなしです。いつかつづきを書きたいな〜




 翔陽のことならだいたい知ってる、と思っていた。去年のゴールデン・ウィークの練習試合で知り合って、それから一年と少ししか経っていない、けれど、その一年のあいだに俺は翔陽のことをずっと見ていた。なんていうとストーカー、変態、みたいだけれど、だって翔陽はおもしろいから。ずっと観察していて飽きないから。
 ロール・プレイング・ゲームの主人公みたいに、彼はどんどんとレベルアップする。魔物を倒し、知恵の実を食らい、装備を増やし、そうして、やがてヒーローへと羽化する。そのようすを眺めているのは、俺の楽しみだった。
 翔陽はおもしろい。夕焼けみたいな髪の毛を揺らして、たくさん汗をかきながらボールを追いかける翔陽は真剣で、とても楽しそうだった。だから俺も、バレーボールを楽しいと心から思った。翔陽がいたから。翔陽が楽しそうに笑うから。
 捕まえたかった。翔陽を。ほんとうのところは、きっとそんな欲望があったのだと思う。
 
 
 茜色の夕日が山の向こうに落ちてゆく。山裾には田圃と畑が一面に広がっていて、草叢に身をひそめる蛙たちがひっきりなしに鳴いていた。い草の匂いは東京ではあまり馴染みがなくて、それで、ここが翔陽の家であることを存分に思い知るのだった。
 翔陽の家は、じつにいろいろな匂いがした。い草、蚊取り線香、田圃や畑から流れてくる堆肥の匂いや草いきれ。夕飯を食べにお邪魔した台所で、なにかが発酵したような饐えたにおいがしたときはさすがにびっくりした。それはぬか床で、俺はぬか床なるものをはじめて見た。
「なにが入ってるの」
 たらいの中にみっちりと詰めこまれた灰色と黄土色の混ざったぬか床を覗きこんで訊くと、「きゅうりとか白菜とか大根とかにんじんとかキャベツとかー……、えー、あといろいろ!」と翔陽は胸を張った。
「翔陽が、その……管理? してるの?」
「ちがうよ、研磨にいちゃん。おばーちゃんとおかーさんと夏だよ!」
 お行儀よくダイニングの椅子に座っていた夏ちゃんが言って、その場がどっと沸いた。
「おばーちゃんからおかーさんにバトンタッチして、だからつぎは夏にバトンが渡るの。今は夏は修行中なの」
「へえ」
 ダイニング・テーブルには夏野菜をふんだんにつかった料理がいくつもの大皿に盛られている。俺はまさにくだんのぬか床で漬けたというきゅうりをぽりぽりと噛んだ。青臭さの中にじんわりとした甘みが広がって、おいしい。母親がスーパーで買ってきたとき以外に、実家では漬物を食べる機会さえ少なかった。
「おれだってできるのにさあ、みんな任してくんねぇんだもん」
「おにいちゃんは、かき混ぜるのがへたっぴすぎるの。夏のほうがじょうずなんだもん」
 ね、と夏ちゃんはおかあさんの顔を見上げた。翔陽と夏ちゃんのおかあさんは、にこにこと笑って頷いた。
 この明るくて賑やかな食卓に、自分が混ざっている不思議や違和を感じる瞬間が減った。去年はじめて一人で宮城に来て、翔陽の家に泊まったときと比べれば、俺もだいぶ成長したのだろう。レベルでいったら10から12くらいにはなったはず。経験値は+700くらい? こうして翔陽の家族とも顔を合わせて夕食を食べたり、他愛のない会話をしたり、家全体を包む空気や雰囲気を心地好いと感じたり。
 今年も遊びにきてよ、と、翔陽はきっとまっすぐな気持ちでメールをくれたのだと思う。去年みたいにウチに泊まってってよ、と。スマホの画面に表示された翔陽の言葉を、無意識のうちにゆび先でなぞっていた。
 夏が終わり、受験生である俺にとっては本格的な受験モードに入る時期で、そうしたらしばらくは翔陽に会えなくなるな、と思った。最悪、次の春が来るまで。
 それはすこし、さみしい、かも。
 携帯メールだけのやりとりでは全然もの足りなくて、気がつけば新幹線の切符を買っていた。一泊だけ、お世話になりますと翔陽にメールをすると、「ありがとう!!!」と返ってきた。ありがとうは、こちらのせりふなのだけれど。

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