Note

No.126

ワードパレットをお借りしました(X@torinaxx
ありがとうございました!

「ただし雨が上がるまで(折り畳み傘/少し小さい/目を合わせ)」
涼啓|年齢操作(高三、高一)、啓介がちょっとグレてたころの妄想(捏造)が入っております



細かな雨粒が教室の窓を叩いた、と思ったらあっというまに本降りとなった。昇降口に降りるまでのあいだ、すれ違った生徒たちが揃って「最悪」とくちにするのを、啓介はうんざりした気持ちで聞いた。そして、最悪、と。啓介もまたこころの中で呟いた。天気予報なんていちいち確認していなかったけれど、今朝の時点ではきれいに晴れていた。なのに雨。よりによってやっと授業から解放された放課後に。最悪。昇降口を出ると雨脚は強まっていた。灰色の厚い雲に覆われた空はたっぷりと水分を含んでいて、湿度百%の空気が肌にまとわりついて気持ちが悪かった。傘はない。置き傘なんてものも当然、していない。しゃあない、濡れて帰るか。雨で色の変わった地面に足を踏み出した時、頭の上にかげが降りてきて啓介は顔を上げた。「濡れるぞ」視線の先には兄の涼介がいた。無表情だったけれど、そのまなざしはつめの甘い弟を憐れむような、とてもおだやかな色を湛えていた。まるで凪いだ湖のようだった。「べつにいい」啓介はくちびるを尖らせて、言った。濡れて帰る、と。「入っていけばいいだろう」「いいよ」「なんで」「恥ずいし」「恥ずかしいこと、ないだろ」涼介は啓介の手首を取って引っ張ると、階段をゆっくりと降りた。兄にたいして、本気の抵抗は啓介にはできなかった。それで、小さな折り畳み傘にふたり並んで入り、帰路を歩きはじめる。しかし傘は、成長期真っ最中にある男子二人を庇えるほど立派なものではなく、雨から守られるのは頭だけだった。涼介の、白いワイシャツに包まれた肩がしっとりと濡れていくのを見て、啓介は思わず、「肩、濡れてる」と指摘した。涼介は横目で自身の肩を、そして啓介の目を、順番に見た。「おまえも濡れてる」ふ、と息をもらして、兄は笑った。「傘さしてる意味、ねぇじゃん」「そうかな。髪は濡れてないだろう」制服は干せば乾くし、と続ける涼介に、啓介はくつくつと喉を鳴らした。「髪もすぐに乾くぜ」「まあ、そうだな」「アニキのこれ、置き傘?」「いや、オレは置き傘はしない。盗まれたりしても困るからな」「今日の天気予報、雨だったの?」「朝のニュースくらい確認するもんだぜ」毎日規則正しい時間に起きる涼介とちがって、啓介の起床時間はまちまちだった。今朝は――このところほとんど毎朝、だが――家を出る時間の数分前に起きて、サボることも頭を過ぎったけれど、母親に促されてしぶしぶ登校した。雨粒は途切れることなく傘を叩き、雨音に耳を傾けながら啓介は、隣を歩く兄の顔を上目で見やった。啓介を守るように傘を傾けているせいで、涼介の黒髪はしっとりと濡れて額に張りついていた。髪の先から垂れたしずくが頬を伝う。水も滴るイイオトコ。啓介はこころの中でぼやく。学校じゅうの女子、学年を問わずそのほとんどが涼介に憧れている。そんな学園漫画みたいなことがほんとうに、あるんだ。啓介は現実味のない事実を噛みしめて、そっと嘆息した。でも、男のオレから見ても、アニキはかっこいいもんな。昔っから、そうだったよな。かっこよくて頭がよくて、オレみたいなデキの悪い弟、放っといてくれればなんの迷惑もかからずに済むのに、放っておいてくれないこころやさしいひと。「……ありがと」少しのためらいののち、啓介はようやくそれだけを言った。視線が動き、涼介と目が合う。涼介は口の端をわずかに持ち上げて見せ、それがあまりに不敵なほほ笑みだったので、啓介は頬を赤らめて俯いた。言うんじゃなかった、と後悔した。でももう遅い。「すなおなほうが似合うぞ、おまえには」うるせー、と吐き捨てた声は、そばを走っていった車のタイヤの音がかき消して、涼介には届かずに散った。

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#D #掌篇


ちなみに画像もね、つくってみたのですがとんでもねぇ読みにくさでびっくりしました‥^^
ほんとうになんというか「なるほどね」ってかんじでした(なるほどねじゃないよ〜)
気にいってはいます。




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