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ハイキュー!!をまた読み直したい! 夏やすみの課題図書とする!
おまえがかわいいから / #涼啓 #掌篇 #D
なにかが頬を滑った、と思った次の瞬間に目はさめていて、薄くまぶたを開けてみる。視界に入った天井は見慣れたもので、それで、啓介はここが兄の部屋であることに気がつく。そして、今自分が横になっているベッドが、兄のものだということにも。
「起きたか」
耳たぶをくすぐる声に視線を動かせば、思いがけず近くに兄の――涼介の顔があって、驚く。「アニキ」。たしかめるように呼ぶと、兄は腰を屈め、啓介にいっそう顔を寄せた。まっすぐに見つめ、そうして指さきで啓介の頬を撫でる。あ、と、啓介はそこで悟る。さきほど頬を撫でた感触は、兄の指だ。
まどろみの浅瀬に立つ啓介につめたい指は心地よく、その温度をもっと味わっていたくて、思わずまた目をとじてしまう。ねこや犬を甘やかすのに似た優しさで、指が啓介の頬を幾度か往復する。くすぐったくて、甘くて、幸福だった。
「……溶けちまいそう」
唇からこぼれたことばは無意識のものだった。しかしそれは心からの本音だったため、啓介は恥じらいを捨て、低く掠れた声ですなおに発した。普段ならばまたちがったかもしれないが、今は眠りからさめた直後で、ほとんど無防備な状態だった。なにを衒うこともせず、かっこうをつけず、ありのままの自分を涼介に晒している。
人さし指が頬、鼻の頭、額へと順に滑り、やがて前髪の生え際を撫でてそっと離れたとき、啓介は思わず「あ」と声をもらしてしまう。途端に消えてしまった涼介の体温を惜しむように、視線が指を追いかけた。
「なんだ?」
涼介はどこか楽しげに口もとを緩めて、啓介を見た。兄に気づかれている――そのことに、啓介も気づいている。そうして少しだけ、恥ずかしくなる。
「アニキ、わかってやってるだろ」
「さあ。どうかな」
涼しい顔で微笑む涼介に、啓介は観念して手を伸ばした。あかりの下で、影が手のかたちにすんなりと長く伸びる。
「……いじわるだ」
「おまえがかわいいから、つい、な」
兄のことばに、頬に熱が集まってくる。伸ばした手を涼介が掴み、柔らかな力で握った。涼介の手はやはりひんやりとつめたく、乾いていた。
「そんなにもの欲しそうな顔をするな」
なにもかもを見透かされていることがほんの少し悔しかったけれど、求めれば応じてくれる兄を、心からすきだと啓介は思う。
落ちてきた唇を受けとめる。うすい唇は、他のどの部位よりもずっと熱っぽいものだった。
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ひたすら手帖の話!!です!!!(風物詩)
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